2020.05.09 16:50『悔恨の果てに』42020.5.10更新『悔恨の果てに』Ⅳ 〈【第十章】【第十一章】〉松下真美 【第十章】 十年ぶりの兄妹 ミリーが、アルデーヌとともに別荘近くの野原に着いたのは夕暮れだった。「この辺りから、中に行ける道があるの……」 ミリーが入口へ案内するとき、アルデーヌはずっと遠くにある別荘を見つめていた。 実は、別荘が目に入った途端、アルデーヌは体をこわばらせた。「どうしたの? アルデーヌ」 気づいたミリーが声を掛ける。「ミリー、ごめんね。あの建物を見ていると……。怖いの。あそこで怖い目に……。よく覚えてないんだけど……」 ミリーは、アルデーヌが怖い目に合っていることを、アルダークが聞いている。(たしか、アルダークさまの目の前で、連れ去られたって……。記憶の片...
2020.03.10 15:16『悔恨の果てに』3『悔恨の果てに』1〈【プロローグ】~〉は、こちらから2020.3.11 更新 〈【第七章】【第八章】【第九章】~〉 松下真美 著 【第七章】 秘密の抜け道 ミリーがアルダークのところに来て、二か月が過ぎた。 季節は初夏、五月の中旬頃であった。 ミリーは働き者で、仕事をてきぱきと、こなしてくれる。そして仕事の合間や食事時間には、必ずアルダークの許へ行き、話をするのであった。 昔の思い出話もするが、最近は外の世界のことも教えてくれる。 アルダークは好奇心旺盛で、いろんなことを聞いてくる。 十年間幽閉されているので、外の話は未知の世界のことだ。しかし、同時に外へ出られない、もう出ることも出来ない自分を恨めしく思い、継母、ロザーヌへ...
2020.03.03 18:14『悔恨の果てに』22020.3.6 更新 《【第四章】【第五章】【第六章】 》 松下真美 著 【第四章】 別れ 何事もなく三年が過ぎた。 アルダークは十歳、ミリーは八歳になっていた。 アルダークは、このごろ少し心配していることがある。家政婦リュゼの顔色があまり良くないのである。「リュゼ。最近顔色が悪いようだけど、どこか具合が悪いことはない?」 ある日、たまりかねたアルダークは尋ねた。「大丈夫ですよ。心配なさらないでください」 リュゼは笑顔で応えた。「だったら、いいけど……。無理しなくてもいいから」 杞憂だったと思いたかった。 ただ無邪気なミリーを悲しませたくはなかった。この天使のような愛らしい少女には、リュゼの具合のことは話さなかった。 それでも、何...
2020.03.01 10:00『悔恨の果てに』12020.2.26 更新 《【プロローグ】【第一章】【第二章】【第三章】》 松下真美 著【プロローグ】「もし、10年前のことさえなかったら……」 この思いはずっと変わっていない。 いや、鬱屈とした心に比例して増大していった。憎しみと恨みを伴って……。 ここは19世紀後半のヨーロッパの、ある王国――。 その少年は17歳。輝く金髪、深い湖水のような青い瞳を持っている。 少年の名はアルダーク・ウィシュナー。 ウィシュナー家は、この王国の貴族の一員である。 彼はウイシュナー伯爵家の長男として生まれた。後継者であるはずの身である。だが今の伯爵家に彼の姿はない。 生来、病弱であ...